R08-3
高高度放電発光現象および広域雷活動研究
Transient luminous events and lightning activity
鈴木智幸 Tomoyuki Suzuki
東京学芸大学 Tokyo Gakugei University
共同研究者氏名・所属
鴨川仁・静岡県立大学 Masashi Kamogawa, University of Shizuoka
長尾年恭・東海大学 Toshiyasu Nagao, Tokai University
研究結果(プロジェクト報告)の概要
スプライトをはじめとする高高度大気中における放電現象の研究では、活発な雷放電に伴って、夏季の関東平野上空で発生するスプライト等の高高度放電発光現象(雷雲の上空で発生する放電現象)を観測し、微細構造や発生の仕組みについて解明する。さらに、低高度の地上観測では、上空を覆う雲や地球の曲率の撮影で遠方からの観測が難しい巨大ジェット、ブルージェット、ブルースターターを詳細かつ多数観測する。また富士山頂という高高度を利用した広域雷放電位置標定を行う。広域検知の利点から高い検知率で雷活動を理解することができ、気象・気候と雷活動の関係なども探る。
今年行った研究は以下の通りである。
1)高高度放電発光現象の測定
従来から行っているWATEC社のモノクロカメラ(モノクロVGA・640x480ピクセル)を2方向(視野中心北北東及び北東)に向け、それぞれのレンズも広域撮影(4mm)になるように設定した。測候所から北部(東北地方・関東北部)から東部(千葉県沖など)の観測領域をカバーした。さらに、今年から高性能一眼レフカメラであるSONY社アルファセブンによるカラーHDTV(1280x960ピクセル)の動画の自動撮影を試みた(図1)。8月から安定した観測ができるようになり、北関東で発生した、活発な雷活動が記録(図2)できていることから、その機能が確認できた。特に雷雲からリーダーが伸び、その後リターンストロークにより雲全体が発光し、雲内の電荷が中和されると雲全体の発光が弱まる一連の放電発光が鮮明に撮影できた。雷放電位置標定装置(全世界落雷標定ネットワークBlitzortung)の落雷データと気象庁レーダーエコー合成図の重ね合わせ(図3)から対応する雷放電と思われる落雷位置が孤立した雷雲内に標定されていることが分かる。また、解析はまだ終了していないが、高高度発光現象も観測されたことが確認された(図4)。
図1 アルファセブンによる自動観測システム。左は前景、右は後景(正面は白山岳)
図2 アルファセブンで撮影された雷放電の時間発展。2019年8月2日
図3全世界落雷標定ネットワークBlitzortung で取得された2019年8月2日20時15分からの5分間の雷活動
円内が図2に対応する雷雲のエコーと雷放電活動(白丸)
図4 2019年8月8日に観測された高高度放電発光現象(スプライト)の一例
2) 広域雷放電位置標定
雷放電位置標定装置(全世界落雷標定ネットワークBlitzortungの機器)を富士山頂および御殿場に設置して通年で観測を行う。富士山頂に機器を設置することで、その高い高度のため広域雷放電位置標定観測が可能となり、高い検知率で雷活動を遠方まで検知できるものと期待される。富士山山頂における通年観測おける冬季(9月~6月)では、バッテリーと太陽光パネルによって電気の供給を行い、これによりWIFIルーターと雷放電位置評標定装置を稼働させるシステムを目指している。本年度は、次の試験動作を行った。まず8月25日から試験運用を開始し、8月29日でバッテリー切れまでの観測をした。本システムは夜間にバッテリー1つの25%が消費されるため、太陽光パネルによる充電がない場合、2日程度の稼働時間となる。富士山山頂では10日程度連続して天気が悪いことがあることから、少なくとも10日程度は充電なしに稼働できるだけのバッテリーを準備することが必要である。
謝辞:アルファセブンの機器については2015年放送文化基金助成「富士山山頂で行う雷放電・高高度放電発光現象の観測と映像データベース構築」によって開発されたものである。また本成果の一部は、東海大学海洋研究所研究事業「富士山火山噴火予測・減災のための観測的研究」(課題番号2019-01)にも用いられる。