R14(T)

急性低圧低酸素曝露が覚醒時および睡眠時の生理心理的指標に及ぼす影響とその順化

Effect and acclimation of acute hypobaric hypoxia exposure on psycho-physiological responses

 

氏名/所属

林聡太郎 Sotaro Hayashi

福山市立大学 Fukuyama City University 

 

共同研究者氏名/所属

澤田結基(福山市立大学)、平野晋吾(福山市立大学)、野瀬由佳(安田女子大学)

Yuki Sawada (Fukuyama City University), Shingo Hirano (Fukuyama City University) and Yuka Nose (Yasuda Women’s University)

 

 

研究結果(プロジェクト報告)の概要

 

【背景と目的】

富士山登山を実施し、2日間の山頂滞在時の生理心理的応答の報告は少ない。低圧低酸素環境での回復過程・順応過程における心身の反応の解明は、脳波に関わる新たな知見を得られると共に、登山時および山頂滞在時の健康管理など、基礎研究と臨床研究の両面の立場からアプローチすることによって、安全な登山活動に寄与することができる。本研究は、本邦最高峰への登山活動時の運動強度および心理的変化を計測するとともに、低圧低酸素環境への2日間の安静滞在が、ヒトの覚醒時および睡眠時の反応と順化に及ぼす影響を、生理学的・心理学的指標の関連性から明らかにすることを目的とした。

【方法】

被験者は、成人男性7名(年齢20±1歳、)であった。富士山登山の経験は無かったが、日常的な高強度運動の頻度は高く、被験者には登山までに十分にトレーニングを積んでもらうよう指示をした。なお、本研究は福山市立大学研究倫理審査委員会の承認を経て実施した。

登山時の測定項目は、環境因子には気温、湿度、WBGT、気圧、高度とした。生理的指標には、心拍数、血圧、動脈血酸素飽和度、鼓膜温、唾液アミラーゼを約1時間ごとに測定した。測候所滞在時には、登山時に測定した項目に加え、睡眠ポリグラフを測定した。睡眠ポリグラフの測定には、Neurobeltを用いた。脳波基礎律動(α波、β波、θ波、δ波)の解析により、ストレスや眠気を反映する覚醒水準の推定及び、睡眠の質を反映する睡眠変数を算出するものである。また、心理的指標として、登山前後に特性不安・状態不安尺度(STAI)および気分感情プロフィール検査(POMS2)を実施した。すべての被験者は登山1ヶ月以内の2日間で、統制下での睡眠時脳波の計測を実施し、各種心理指標の計測も実施した。

登山前日に、教員1名がブルドーザー登山を行い、荷揚げおよび解析装置の設置を行った。被験者およびその他の測定者は御殿場事務所に宿泊し、翌日7時30分に富士宮口5合目から徒歩登山を開始した。7?9合目までに、体調不良等によって被験者3名と帯同教員2名が下山し、測候所には被験者4名、環境測定者2名および研究者2名が滞在した。翌日、研究者2名が再度徒歩登山を行い、体調不良者3名を下山させた。最終日は測候所滞在をしていた全員が徒歩下山をした。したがって、1日のみの測候所滞在のデータを収集できたのは4名分で、1両日を通して各種測定を完遂した者は2名であった。

 


図1 登山活動中の諸測定                   図2 睡眠ポリグラフの設置と測定

 

【統計処理と研究の限界】

収集した生理的指標と生理心理的指標については現在解析中である。また、脳波ポリグラフについては、実験室での統制夜と、初日の3例および2日目の1例との比較を行い、低圧低酸素下の特徴を見出すことができる。これらの結果は、成果報告会ならびに今後各種学会等で発表する予定である。

 

本研究の限界として、すべての被験者は運動習慣を有しており、運動能力は運動習慣を有さない者と比較して高い集団であったものの、事前の高所順化を行なっていなかったことから、高山病による下山者が多かったことが挙げられる。高度3,000mを超えた時点から頭痛等の自覚症状が出た者が多く、3,500m時点で続行不可能と判断した。高所順化をさせていなかったことから、測候所において活発に活動できた者は、動脈血酸素飽和度が測候所滞在時も大きく低下しなかったことから、赤血球の産生を促進させるエリスロポエチン遺伝子多型であったことが推測される。富士山測候所を利用する生理学的研究の場合、身体能力の高さではなく高所順化の有無または高所への適応能を考慮し、被験者の選定と実施の必要性が考えられた。