1.氏 名:鴨川 仁 Masashi Kamogawa
2.所 属:東京学芸大学 Tokyo Gakugei University
3.共同研究者氏名・所属:
鈴木智幸 東京学芸大学
佐々木一哉 東海大学
安本勝 (株)アンテック
鈴木裕子 東京学芸大学
David Smith, カリフォルニア州立大学 サンタクルーズ校
Gregory Bowers, カリフォルニア州立大学 サンタクルーズ校
Nicole Kelley, カリフォルニア州立大学 サンタクルーズ校
4.研究テーマ:
富士山山頂における雷研究
Study of lightning and atmospheric electricity at the summit of Mt. Fuji
5.研究結果の概要:
(1)高高度放電現象の観測
2015年は、一昨年、昨年の観測結果を踏まえ観測方法をさらに改善した結果、8月2日に5回、スプライトの撮影に成功した(図1)。この画像からも分かるように、富士山山頂からの観測は地上観測に比べ広範囲が見渡せ、かつ、気圧が低く透明度も高いため、スプライトの全容が鮮明にとらえられている。この発光は、群馬県と栃木県の県境付近で発生していた雷放電活動に伴い発生したものであった。また2015年は、東京都小金井市と静岡県静岡市でVLF帯電磁波の生波形の収録を行い、このスプライトの親雷の落雷波形も取得できている(図2)。
(2).接地線に流れる雷電流観測
富士山頂の雷現象解明と雷対策のため、山麓側接地極に繋がる測候所の接地線 に流れる測候所被雷電流、および周辺雷による誘導電流の測定を続けている。この測定を自動化することで、測定漏れを無くし、また他の現象の測定とも同期さ せることにより、その測定結果も考え合わせて富士山頂のダイナミックな雷現象の解明を目的にしている。さらに、富士山頂のように被雷頻度が高く、高所で気
圧が低く、および接地インピーダンスが岩盤で大きくなる等の環境下で使用する観測機器の安定な測定を可能にする雷対策方法の開発を目的に実施している。
図3は写真撮影された画面上に記録された波形を元に復元したサージ電流波形である。高圧 ケーブル内接地線に流れたピーク電流最大値は、約1.25kAであった。富士山測候所の山麓と繋がる接地線は、高圧ケーブル内蔵接地線以外にもあり、この 別系統に流れる電流も同じとすれば、約2.5kA流れたと推測される。電流感度が高い周辺雷用系統の記録時間は速くなっていたため、この直撃雷の初期過程
が細切れの形で記録されていたが、途中で終わった状態になっていた。その時点で自動記録機能は停止したものと推測される。
雷現象によるサージ電流測定は、雷によって高圧ケーブル内蔵接地線を流れるサージ電流をデジタルストレージオシロスコープ(以下DSO)の自動記録(デー タロギング機能によるデジタル値記録)により実施した。高圧ケーブル内蔵検接地線電流測定は、測候所直撃雷による大電流観測用(~10kA)と周辺雷に よって流れる電流用(~1kA)の2種類のロゴウスキーコイル電流計で行った。
直撃雷用観測に使用したDSOの画面には直撃雷波形が観測された。 しかし、その自動記録データ保管場所であるUSBメモリーには、画面に相当するデータが記録されていなかった。原因はDSOの機能によるもので、続けて生 じる現象の場合、最初に生じた現象により自動記録機能が動作を開始したとき画面像も記録されるが、引き続き新たな事象が自動記録が終了する前に生じたとき
画面像は応答が速いため新たな画面像に変わるが自動記録は動作しない。このことが原因で画面上には落雷現象が記録され、データロギングには画面像に該当する波形のデータが記録されていなかったと推測される。
図3の波形の形状はLCR回路に見られる特徴的な放電現象を示している。この特徴は、富士山頂の気圧が低いことと、高インピーダンス岩盤上にあり、山麓側接地極に繋がる富士山測候所導体構造物に被雷したことを反映しているものと考えられる。また山頂班員の情報である「測候所への落雷では無く下側の落雷であった。」とのことを考え合わせると測候所から山腹に垂らしている接地線(300m×2本、400m×1本)、あるいは下方向にある測候所に繋がる何らかの導体構造物に被雷したものと推測される。観測された電流の一部は大地に流れるが、大半の落雷電流が測候所を経由して山麓側に繋がる高圧ケーブル内蔵接地線に流れたものと考えられる。
周辺雷による誘導電流は自動記録により、多数観測され、自動記録にしたことで取りこぼしは無視できるものになったと思われる。図5はその一測定例で、正負に振れる誘導電流の特徴が見られる。
今回の測定結果を踏まえ、改良すべき点として以下がある。
1) 山麓側に繋がる接地線を一つにまとめて1個所で山麓側に流れる全電流を観測できるようにする。それを可能にするため、測候所の山麓側接地極に繋がる接地線 を測定個所高圧ケーブル部分で直撃雷用と周辺雷用それぞれ一つのロゴウスキーコイルで測定できるように1個所にまとめる。
2) 多重雷のように短時間の間に複数落雷が生じる場合も全データが記録されるようにする。そのため、測定回路時間特性は充分長くし、その上でDSOは充分長い 記録長にするなどして、使用する必要がある。トリガーレベルも考慮し被測定対象になる被雷電流を記録可能にする適切なトリガー方法にする必要がある。
3) 直撃雷電流が流れても周辺雷用の高感度検出回路は破損させない。
4) 誤動作を生じないように耐ノイズ性を高める。①サージ電流の侵入を防ぐため、接地系統の等電位性を高める。②電源はNCT(ノイズカットトランス)を介して用いる。③接地系統に電位差を作らない。できる場所には雷対策ケーブルを使用する。
(3).福島原発事故に関連する放射線観測
2011年3月の福島第一原発事故による放射能物質の飛来の研究には、シミュレーションとの比較のため、高度方向のデータが貴重と考えられる。そのため、 測候所の 複数グループによる放射線の研究がなされ、山頂の福島原発事故由来の放射性物質の存在は検知できる範囲以下であると結論づけた。複数の手法によって行われ
た前測定では、Cs134は検知限界以下であったが、サンプル量や検出時間が短かった可能性があるため、検知されな かったことも考えられる。このことを再検討するために2014年はより高精度に放射性物質起源の弁別が可能となるゲルマニウム半導体検出器を山頂に設置
し、2015年には太郎坊に設置した。その結果、これらの観測された放射線測定データを1か月積算することで、極めて微量のCs134のガンマ線を検知す ることができた(図6)。一方、太郎坊では明瞭なCs134が検知されている。
(英語表記)
We investigate lightning and related phenomena from the summit of Mt. Fuji. In the observation, we focus on the following topics: 1) Sprite and related phenomena. 2) Eliminate the lightning
damage in order to establish a safe solar electric system and also for the safe observational researches at the station. 3) Radiation measurement related to 2011 Fukushima Power Plant accident.