雷雲強電場環境における電子機器への影響評価実験

1.氏 名:工藤剛史 Takeshi Kudo
2.所 属:音羽電機工業株式会社 OTOWA ELECTRIC CO., LTD
3.共同研究者氏名・所属:
圓山武志,廣岡征紀 音羽電機工業株式会社
鴨川仁 東京学芸大学


4.研究テーマ:
雷雲強電場環境における電子機器への影響評価実験

5.研究結果の概要:

5.1 目的
多くの雷被害は、落雷に起因する直撃雷・誘導雷によるものであるが、雷雲が作る強い静電場下では、コロナ電流が流れており、近年の脆弱化した電子機器に何らかの影響が及んでいることは否定できない。特に雷被害が多い山頂施設は、雷雲内におかれた状況になることがある。富士山測候所は、毎年数回雷雲内に入り、自然界で雷雲が作る強電場の試験場所に適する。電子機器を収めた箱内に自然雷雲が作る強電場がどの程度電子機器に影響を及ぼすかについて明らかにし、その対策方法を確立するため、基礎的な実験を行う。まずは、ボックス内の小さい空間で、静電場を測定する方法を実験により確認する。
5.2 方法
図1に今回の実験装置の概要を示す。プラスティック製のボックス内に鉄製の金属箱を設置する。金属箱の外に、静電気センサ(コガネイ製EPセンサ)を1台設置し、金属箱内のデータ記録装置(グラフテック製GL-100)に接続する。これにより、プラスティックボックス内の静電場を測定する。温湿度センサとデータ記録装置を金属箱の外側に設置し、雷雲接近時にデータ取得の異常有無を判断する。金属箱の中に、静電気センサと温度センサとデータ記録装置を設置する。金属により遮蔽された空間の静電場を確認すると共に、先に述べた金属箱外の温湿度データとの比較を行う。20 m離れた接地電極からの接地線を金属箱内のデータ記録装置に接続し、雷雲接近時や落雷時の接地電位差を測定する。データ取得間隔は、全ての記録装置で1秒間隔とし、全ての装置はバッテリーにより電源供給される。実験装置は、1号庁舎の西側に設置する。図2に実験装置を設置した場所を示す。

 図1 実験装置の概要
 図1 実験装置の概要
図2 実験装置の設置場所(NPO法人富士山測候所を活用する会 利用手引きの図を修正・加筆)
図2 実験装置の設置場所(NPO法人富士山測候所を活用する会 利用手引きの図を修正・加筆)

5.3 期間およびデータ
 実験期間は2015年8月5日から2015年8月23日であった。静電気センサの データ記録装置(記録装置1)および接地電位差計測のデータ記録装置(記録装置2)が正常に動作しなかったため、金属箱外に設置した温湿度データのみ記録 することができた。東京電力株式会社が提供する雨量・雷観測情報(http://thunder.tepco.co.jp/)によれば、本期間中に富士山 上空または周辺で雷活動を8月6日、8月7日、8月13日の3日間に確認した。取得したプラスティック製ボックス内の温湿度データの欠測の有無を確認し、 記録値を気象庁の気温・日照10分データ(http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php)と 比較し、雷雲接近に伴うデータ記録装置の異常有無を検証した。

5.4 結果
プラスティック 製ボックス内の温湿度データのポイント数を確認したところ、欠測はなかった。各値についてもエラー表示は無く、アラーム等の出力も無かった。今回の実験に おいては、雷雲接近や近傍への落雷時にデータ記録装置がフリーズや誤動作するということはなかったと考えられる。図3に取得したプラスティック製ボックス 内の温度データ(赤実線)と気象庁気温10分データ(青実線)、気象庁日照10分データ(緑実線)を示す。横軸に時間、縦軸は温度と日照時間である。ボッ クス内の温度と気温の増減の傾向はほぼ一致しており、ボックス内の温度変化が気温に比べ大きいのは、日照データが示すように日射による熱の影響を受けてい ると考えられる。日照時間が少ない8月13日や8月17日から21日にかけては、ボックス内の温度と気温が近いことがわかる。これらのことから、取得した 値についても、妥当であると考えられ、今回の実験においては、センサとデータ記録装置に不具合を生じさせるような電気的影響は確認されなかった。しかしな がら、雷雲接近時や近傍に落雷が発生した際に、ボックス内にどの程度の電場が加わっているかについては、定量的に確認する必要がある。
今回の実験 では2台のデータ記録装置は正常に動作しなかったが、静電気センサの動作確認とバッテリーのパフォーマンスを確認することができた。期間中に2日間雷雲 に覆われ、少なくとも1回(2015年8月13日)、測候所への直撃雷があり、雷雲・落雷観測実験の試験場所として適することを確認した。今後は、データ 記録方法についてバックアップを含め、再検討を進める。

            図3.プラスティック製ボックス内の温度データと気象庁気温・日照データ
            図3.プラスティック製ボックス内の温度データと気象庁気温・日照データ